寡聞にして存じなかったんですが、世の中にはアイドルについて熱く語る blog は数多くあるのですね。考えたらそういう「芸」あるいは「文法」あるいは「文体」あるいは「生き様」があっても当たり前なわけで、そう考えると一朝一夕のまいみファンがそこに太刀打ちできるわけもない、というか、思ったより道が混んでいたので引き返したいような弱気。単純にまいみまいみ書くのが楽しいなあと思ってやっていたのだけど、なんだろう、どの道も無数の烈が三千年前に通過しているのだなあ。アイドル破産のひとおもしろいなあ。ということで一過性の萌え萌えを終了して普通のサラリーマンとして適当に飲酒。明日はおがまなさんがベイの始球式に登板だよ(未練)。

柴田さんと最後に会った日のことが忘れられない。立ち飲み屋に行くと柴田さんはきっと後から現れて黒じょかを分け合ったものだが、おれは知らなかったのだ、メロン記念日はまだ活動していた。その焼きとんと焼酎の旨い店のカウンターで何度となく穏やかに飲み交わし、時には仕事の話もしたはずなのに、なぜか、メロンは解散したものと思い込んでいた。そして何かの拍子に「メロンが終わった今」と口にしてしまった時、柴田さんの顔色が変わったのをさすがにおれも見逃さなかった。ふと自分の勘違いに気づき動揺したおれが口ごもっていると、彼女はふっと表情を和らげ、しかし視線をゆっくりと落として何かを低く呟きはじめた。聞き返そうとするおれを制するように、彼女はおもいきり背中を反らして酒を飲み干し、その反動で勢いよくカウンターに額を打ちつけた。おれのみならず店中が静まり返り、声をかけられないまま、その、両手を飛行機の尾翼のようにうしろへピンと伸ばし、地の底から響く声で歌う彼女を見ていた。ビィーマイワイフ、ビィーマイワイフ…。ロック…シタイデス…。

黒じょかで強かに殴られて気を失うのはそれから間もなくのことだった。目を覚ますと彼女の姿はなく、店内のあちこちでうめき声が聞こえていた。頭を触るといやなぬめりを感じて手を見ると赤黒く、映画やドラマのようだなと余所事のように思った。天井が回るのを必死にとどめながら起き上ったおれは、目の前の壁を見てまた倒れそうになった。赤茶けた砂壁に、どす黒い液体で「最強で最狂で最響」。当店の秘伝のタレとやらを台無しにされたとむせび泣く店主を横目に、おれはその壁の字から目が離せずにいた。メロン記念日柴田あゆみ、彼女とおれとの間には、香ばしい味噌ダレで書きなぐられたその八文字が、いまや永遠のような距離で横たわっているのだ。酒を飲めばきっと出会えた彼女との今生の別れを思い、おれはただ立ち尽くすばかりだった。

その夜を思い出しながらアブサン。まいみは空にダイヤモンド。あるとき柴田さんに強烈に惹かれたおれを、まいみはニコニコと笑って見ていた。今も、Bello! ではいつもより小柄に見えるから楽だと笑っている。でもアブサン。サイバーは怖いからアブサン。あかん眠くなってきたで。アルテミジアアブサンカプリシューズ。72度。目をつぶったら二度と君も来てくれなくなるのは分かっている。でも72度。思えばなんで君に会えたのだろう。義務感と焦燥感以外からは何もしようとはせず、強迫観念と絶望と希望をキャンディのようにしゃぶり続ける子どものようなおれが、なぜ君のような素晴らしいひとに出会えたのだろう。それを疑ったときから別れははじまるのだということも分かっている。目をつぶったらさよならだよまいみ。明日からまた一人で飲むさ。