花金ナイトフィーバー

大学時代に知り合い、今は淡々とした仕事に就いた友人と飲んでいて、彼がなんとなくおれを夢の世界の住人のように言うのに気付く。軸の正しい友人がいる、というおれの身分不相応な僥倖の一部であるところの彼はとても賢くて、人をむやみに突き放して類型化するようなこともしない公平な人なのだけど、彼がずっと好きな「本」をつくる仕事に対してはなんとなく夢のようなものをもっているのか、それがなんとなくいいもののように感じているのではないかとおれは思った。いや繰り返しになるけど彼は賢くて、どの仕事も、もちろん本をつくる仕事も、うわべはどうあれ深奥では同じようにカラッカラのペランペランで否応なしのルールに支配された暴力的に機械的な営みなのだとは知っている、しかし殊「本」についてはその先に希望があるように感じているのではないだろうか、とおれはまなじりに涙が溢れ出すのを堪えながら踊った。DJ 2000 and one 初来日の夜だった。おれは高校大学社会人とむりやりクラスチェンジさせられても依然ガキのままでしかもそこにかまけている性質の悪い居直り強盗で、そのくせ自分が常に誰かを裏切っているような、殊今夜に関しては自分を代官山 unit まで導いてくれた彼を出し抜いているような、その偽りの山の上にいまの自分が生きているような、そんな気がしてたまらなく悲しくなった。DJ が曲の合間合間に挟みこむ、少し前からフロアで流行したというエスニックなネタ音が、おれの魂を遠く天竺までも飛ばしそうだった。

まあ四時にクラブを出たのはそんなこととは関係なくガキなので眠くなっただけなのですが、あまりに頭をぐらつかせているおれを見かねた彼が「帰ろう」と言ってくれたのだった。気付け薬にと手渡してくれたのはサッポロビールだった。クラブ特価 600 円。タクシーで家に戻り、少し喋って寝て、起きてまた日が傾くまでどうでもいいことを真剣に語り合った。夢の世界ってなんだか知らないけど、おかげで、現実の方がちょっと楽しいよ。